営業店復帰

白い地獄から生還した僕は、通常の営業店に配属された。

そこでの体験も、結局は違う地獄だっただけ。
ただ、こっちの地獄には耐性が出来ていた。

自分というものが死んでいれば、大抵の事は我慢出来た。
相変わらず、死ぬほど嫌いなエリアマネージャーが君臨していたが、僕は従順な社員として働いた。

結構頑張ったと思う。

僕は他の社員と比べて飛び抜けて客単価が高かった。
これは入社当時からずっとそうだった。

良い物を売ることが好きだったのだ。
そして、お客さんが気付いていないニーズを満たす提案を次々と繰り出すのも得意だった。
あと、商品知識が豊富だったので、うんちくを語りながら、通のお客さんの心を掴むのも得意だった。

要するに、物の良さがわかっている人に対しては抜群に強かった。
あと、普通の販売員だったら敬遠するような難しいお客さんの相手をするのも平気だった。
クレームの処理担当も僕のところによく回ってきた。
非常に真剣に、真摯にクレームに向き合うので、クレームを入れてきたお客さんが、結構よい顧客になった。

逆に、物の価値がわからない、あるいは安くあげたいお客さんを相手にするのは酷く苦痛だった。

だから、どの店に勤務しても、僕には数少ないながらも僕でないと駄目というような濃い顧客が出来たものだ。

だが、そういう僕の特性と、会社の方針が合わなかった。
継続的な顧客との親密な関係作りよりも、その日の売上と粗利益率が全てだった。

会社は長期的な展望に立てず、超短期的な数字に一喜一憂した。
社長が二代目に変わったときから、その傾向は一気に強まった。
一時間おきに売上の状況報告が義務づけられ、報告を怠ると激しい叱責が科せられた。

接客をしていると、日々の報告資料の作成が間に合わないので、お客さんが来ても応対出来なくなった。

売上を上げることが目的の報告資料作りが、最も売上を阻害する要因となった。
経営はそのことに気付かない。

僕にはそれがナンセンスに感じたのだが、会社の方針には逆らえないのがサラリーマン。

だんだん言われた事だけをこなすようになっていった。
それだけでも膨大な仕事量だったのだが。

報告資料